クリシュナ神の物語

バーガヴァタ・プラーナ  第十一巻

第十一巻は、第一話から三十一話まであります。

 第十一巻第六話
 神々は主に帰還を要請する
 
 聖シュカは再び始めました。
 『 (ナーラダ仙がヴァスデーヴァに教えを授けて去った後)今やその場には、息子達(サナカ兄弟たち)に囲まれたブラフマー神、そして(インドラなどの)神々、(マリーチなどの)プラジャーパティ達が来られて、さらに過去と未来の創造の主(シヴァ神)が、子鬼達を連れて到着したのです。
 偉大なインドラ神はマルト神群と共に、さらにアーディティヤ神群、ヴァス神群、アシュウィン双神、リブ神群、アンギラス神群、ルドラ神群、ヴィシュウェーデーヴァ神群、サーディヤ神群、ガンダルヴァやアプサラス、ナーガ、シッダ、チャーラナ、グヒヤカ(ヤクシャ)、リシ、祖霊(ピトリ)達、ヴィディヤーダラやキンナラ、彼らの全員が、全宇宙の罪を滅ぼす栄光を世界に広げた、全人類の心を魅了するクリシュナの御姿を見ようと、ドワーラカーへやって来たのです。
 富と繁栄が溢れたその都で暮らされる、最高に美しいクリシュナの御姿を、集まってきた天人達は、少しも飽きずに見続けたのでした。
 彼らはヤドゥ族の最高者(クリシュナ)を天国の花で覆い尽くすと、美しい言葉と思いに満ちた讃美歌で、次のように宇宙の主を讃美し始めたのです。(1〜6)
 
 神々は言いました。
 「 ああ、主よ、私達は、理性と感官、心、身体、そして言葉で、あなたの御足に礼拝を捧げるでしょう、カルマの束縛から逃れんと願う者は、バクティで心を満たして、あなたの御足を瞑想するのです。けれども私達は幸運にも、その御足を眼で見ることが出来たのです!
 ああ、無敵なる主よ、あなたは三グナを支配して、想像も出来ないこの宇宙を、それらグナよりなるマーヤーを用いて、御自身の中に創造、維持、そして破壊されるのです。しかしあなた自身は、それらの行為に少しも影響されません、なぜならあなたは、執着からは完全に自由であり、御自身の祝福のうちに、永遠に留まっておられるからです。
 ああ、讃うべき最高の主よ、心の不純な者が、聖典の学修や礼拝、布施、苦行、儀式などを行おうとも、清らかな心の信者が、あなたの栄光をお聞きして、バクティに満たされて、それらを為すほどには、彼らの心を浄めてはくれないでしょう。
 ああ、主よ、あなたの蓮華の御足が、どうか我らの不敬な願いを燃やす火となりますように! その御足は、祝福を求める苦行者達が、愛に満ちた心で瞑想するもので、またあなたのような栄光を求める信者が、様々な顕現(ヴァースデーヴァなど)を通して礼拝するもので、さらにスワルガ(天国)を超えんとする賢者が、日に三度崇めるものなのです。
 そしてその御足は、三ヴェーダに則って祭火に供物を注ぐ、祭祀に通じた者がその火の中に瞑想するもので、さらにアートマンを悟らんとするヨギーが、それを覆うマーヤーを見通す眼を求めて瞑想するもので、主の最高の信者が、何ひとつ求めずに、如何なる場所でも礼拝するものなのです。
 ああ、主よ、神聖なる女神シュリーは、まるで愛人のように、あなたの胸の色あせた花輪とさえ競わんとします。そしてそんな花輪を捧げる礼拝をも、あなたは受け入れて下さるのです。どうかあなたの蓮華の御足が、我らの悪を燃やす火となりますように!
 ああ、遍満される全能の主よ、あなたの蓮華の御足が、どうか我らの罪を浄めてくれますように! 宇宙を三歩で歩かれたその御足は、三界に流れるガンガーを旗に、勝利の塔のようにそびえ立ち、悪魔には恐怖を、天使には不畏を、そして正しき者には天国を、邪悪な者には滅びをもたらされるのです。
 最高者(プルショーッタマ)であるあなたが、どうか我らの喜びを高めてくれますように! あなたはプルシャとプラクリティよりも高き御方であり、全ての存在の推進者(カーラとして)となって、ブラフマー神や、互いにいがみ合う魂達を、まるで鼻輪で雄牛達をつなぐように、御自身の支配下に置かれるのです。
 全宇宙の創造と維持、破壊を司られるがゆえ、あなたこそが最高者(プルショーッタマ)なのです。そのようなあなたを、ヴェーダは、プルシャとプラクリティ、マハトの管理者だと、そして全てを滅ぼして迅速に動きゆく、(四ヶ月毎の)三つの中心を持つカーラ(十二ヶ月からなる時の車輪)だと宣言するのです。
 プルシャはあなたに力を注がれて、マーヤーと協力しながら、全宇宙の種子である、マハト・タットヴァを生んだのです。そしてそのマハトは、あなたから力を得て、七つの殻に囲まれた、黄金の宇宙卵を生み出したのです。
 それゆえあなたは、ああ、インドリヤの促進者よ、動不動からなる一切の被造物の王なのです。あなたはマーヤーを用いてグナを変異させ、感官の対象を生み出して、ジーヴァとしてそれらを楽しまれ、かつそのことに少しもとらわれないのです。しかしあなた以外の者は、全員が一度は自分が放棄した感官の楽しみを、たえず恐れ続けるのです。
 一万六千人あまりものあなたの妻達は、はにかんだ笑みと流し目であなたを見つめて、弓のような眉でカーマの矢を射かけても、あなたの心を動かせなかったのです。
 あなたの蓮華の御足からは、アムリタのようなあなたの物語と、あなたの御足を洗った天界の河(ガンガーなど)が流れ出し、それらは全世界の罪を滅ぼしてくれるのです。ヴェーダの教えに従う人々は、それらに自分達の身を浸して、自分達を浄めようとするのです! 」と 』(7〜19)
 
 バーダラーヤナの息子(シュカ)は再び始めました。
 『 ブラフマー神は、神々やシヴァ神と共に天空に留まり、このようにゴーヴィンダを讃美すると、深くお辞儀をした後で、次のように話したのでした。(20)
 
 ブラフマー神は言いました。
 「 ああ、主よ、私達は地球の重荷を取り除いて下さるよう、あなたにお願いしたのでした。そしてそんな私達の望みを、ああ、全ての者の内制者よ、あなたは全て叶えて下さったのです!
 真実を誓った人々の間に、あなたは確固としたダルマの道を確立されて、全世界の罪を滅ぼすあなたの栄光は、今や全ての方向に広がっていったのです。
 あなたはヤドゥの一族に降誕して、素晴らしい御姿を顕し、全世界の幸福を祈って、勇武に満ちた多くのわざを為されたのでした。
 ああ、全世界の管理者よ、カリに生きる敬虔な人々は、あなたの偉業を耳にして、それを讃美したなら、無知の闇を容易に越えていけるでしょう。
 ああ、最高者よ、あなたがヤドゥ族に御姿を顕されてから、もはや百と二十五年もの年月が経過したのです。
 ああ、全宇宙の支持者よ、神々の望みでやり残されたものは、もはや何ひとつとして存在していません。そしてブラーフマナの呪いにより、今やヤドゥ族は滅んだも同然でしょう。
 それゆえ、ああ、主よ、どうか御心に叶うならば、もう御自身の世界(ヴァイクンタ)へお戻り下さい。 そしてあなたのしもべである、世界の守護神である私達を、私達の世界と共に祝福して頂きたいのです! 」(21〜27)
 
 聖バガヴァーンは答えられました。
 「 神々の支配者よ、あなたが言われたことは、私も既にそう決めていたことなのだ。なぜならあなたの願いは今や全て叶えられ、地球の重荷ももはや取り除かれたからだ。
 英邁な行いと勇武、莫大な富にて心を驕らせ、全世界をも支配せんとするヤドゥ族は、海が岸辺でせき止められるように、今まで私によって阻止されてきたのだ。
 かくも高慢となり果てたヤドゥ族を滅ぼさずに、私がこの世を去ったなら、限界を超えたこの海により、やがて全人類が破滅してしまうだろう。
 しかし今やブラーフマナの呪いにより、この一族の破滅が始まったのである。そしてこの絶滅が完了するや、ああ、罪なきブラフマー神よ、私は直ちにあなたの世界に昇っていくであろう(ヴァイクンタへ昇る途中で)! 」と 』(28〜31)
 
 聖シュカは続けました。
 『 宇宙の主からこのように告げられたスワヤンブー(ブラフマー神)は、恭しく主の前にひれ伏すと、全ての神々と共に、自分の世界へ帰っていったのでした。
 そして主はその後、ドワーラカーに現れた多くの凶兆を眼にされると、集まったヤドゥ族の年長者達に、次のように話されたのです。(32〜33)
 
 聖バガヴァーンは言われました。
 「 辺りにはおびただしきほどの凶兆が現れて、今や我ら一族の上には、避けがたきブラーフマナの呪いが降りかかったのだ。
それゆえ、敬うべき方々よ、もし生き延びんと欲するなら、我々はもはやこれ以上、この地に留まるべきでないだろう。今日この日、我々は最も聖なる地、プラバーサに移動すべきであり、そのことに一刻の遅れもあってはならないだろう。
 星々の王(月の神)はダクシャに呪われた為、消耗の病いに罹ったが、この地で沐浴することで困難から救われ、再び満ちることが出来るようになったのだ。
 それゆえ我々もまたその地で沐浴を行い、祖霊や神々を満足させて、ブラーフマナには美味な食事を提供し、ふさわしき享受者に贈り物を捧げることで、荒海を船で渡るが如く、容易にこの罪を越えていけるであろう! 」と 』(34〜38)
 
 聖シュカは続けました。
 『 このように主から指示されたヤドゥ族の人々は、ああ、一族の喜びなる者よ、今やその聖地へ旅立つ決心をして、それぞれの馬車を準備したのです。
 この様子を眼にして、そして主の語られた言葉を耳にした、クリシュナに常に献身してきたウッダヴァは、恐ろしき凶兆を眼にすると、人目に付かぬところでその宇宙の主に近づき、その御足に頭をつけて合掌した後、次のように言ったのでした。(39〜41)
 
 ウッダヴァは言いました。
 「 ああ、全ての神の支配者よ、偉大なるヨーガの大師よ、その栄光は、聞く者すべてを浄化する御方よ、あなたはこの一族を滅ぼした後で、この世から去らんとしておられるのでしょう。なぜなら、全能者であるあなたは、あのブラーフマナの呪いを打ち消せるのに、そうしようとされないからです。
 ああ、ケーシャヴァよ、私は一時でさえ、あなたの蓮華の御足を捨てられません、どうか私をあなたの世界に連れていって下さい!
聞くに最も吉祥な、アムリタの如きあなたの遊戯を耳にしたなら、その者はすべての渇望を捨てられるのです。
 ならば最愛の人であり、アートマンでもあるあなたがおらねば、私達はどうして生きていけるでしょうか? あなたが眠る時や座る時、立つ時、歩く時、そして沐浴する時や、さらに遊んで、食事をされる間も、私達は常にあなたにお仕えしてきたのです。
 しもべである私達は、あなたが使われた花輪や白檀、着物、飾りなどを身に飾り、あなたの食事の残りを口にして生きてきたのです。それゆえ私達は、あなたのマーヤーでさえ越えていけるでしょう(しかしあなたとの別れには耐えられない)!
 ブラフマンというあなたの境地に至り得るのは、空気以外を身にまとわず、信仰に非常な努力をして、全ての楽しみを放棄し、激情を捨て去り、精液を天に向けた(生涯の禁欲を誓った)、心に少しの汚れも持たない聖仙達だけなのです。
 けれども、ああ、最高のヨギーよ、カルマの迷宮に彷徨い続ける私達が、サンサーラの闇を超えていくには、あなたが普通の人のように行為して、話された事、そしてあなたの歩き方や微笑み、まなざし、冗談などを心に思い、あなたのことを信者達と共に話すことでしか、それは不可能なことなのです! 」と 』(42〜49)
 
 聖シュカは言いました。
 『 ああ、王よ、愛する御自身のしもべであり、最高の献身者であるウッダヴァが、このように懇願した時、バガヴァーンであられるデーヴァキーの御子は、次のように話されたのでした 』(50)
 
 

注1 マルト神群(四十九人)、アーディティヤ神群(太陽神であり、十二人からなる)、ヴァス神群(八人)、ルドラ神群(十一人)、ヴィシュウェーデーヴァ神群(十人)。
注2 六種の信者の種類が語られて、最後の者が最高とされる。
注3 五種類ある解脱の内のひとつ。上巻解説503頁参照。
注4 ヴィユーハ論による。上巻解説477頁参照。
注5 主の国であるヴァイクンタは、スワルガ(天国)を超えた彼方にあるとされる。
注6 ガンガーはヴィシュヌの御足から流れ出すとされており、それは天界ではマンダーキニー河、地上ではバーギラティー河、地下世界ではボーガヴァティー河になるとされる。
注7 月の神チャンドラは、プラジャーパティであるダクシャの二十七人の娘と結婚したが、彼がその中のローヒニーだけを愛するのを見て、父のダクシャは彼に呪いを発した。
注8 バクティの教えでは、主が食された後(捧げられた後)の残りの食物を口にすることは、バクティを生み出すのに大きな働きを持つとされる。

(第十一巻第六話の終わり)

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