インド細密画を読む・1

悪魔マドゥとカイタバを殺害するヴィシュヌ

     

 中央に描かれるのはマハーヴィシュヌ(クリシュナ)で、蓮の花と鎚矛、円盤スダルシャナ、法螺貝を四本の腕に持っておられる。右上にはヴィシュヌの妻、美と繁栄の女神、ラクシュミーが描かれる。蓮の花が咲き乱れるのは、かつて宇宙崩壊の時、全世界を沈めた原初の海を表しており、ヴィシュヌの足下には、首を切断されて死んだ兄弟のアスラ(悪魔)、マドゥとカイタバが横たわっている。
 かつて創造の始めに、マハーヴィシュヌの耳垢から、二人の悪魔、マドゥとカイタバが誕生した。そのアスラ(悪魔)の兄弟は非常な力を誇り、原初の水の上を自由に動き周っていた。ブラフマー神がマハーヴィシュヌの臍に生えた蓮に座り、ヴェーダを唱えているのを見ると、彼らはそのヴェーダを奪い去り、パーターラ(地下世界)へと逃げ込んでいった。ブラフマー神は彼らを追いかけたものの、返って打ち負かされてしまった為、マハーヴィシュヌへと助けを求めたのだった。そこでヴィシュヌは、ヴェーダを取り戻すために二人のアスラと戦う羽目となった。しかしアスラの兄弟は互いに、一人が戦う時にはもう一人が休むということを繰り返した為、ヴィシュヌは戦いに疲れ果ててしまった。そこで彼らに近づくと、「どうかあなたたちを殺害するという恩寵を私にくれないか?」と頼んだのであった。二人のアスラは笑い、ヴィシュヌを見くびって、辺り一帯が水に満たされているのを見ると、「水のない所でなら、お前は俺たちを殺せるだろう。」と答えた。
 それを聞いたマハーヴィシュヌは、自分の腿を確固盤石とした広大な陸地のように拡げていかれた。アスラ達は驚き、自分たちの身体を一千ヨージャナの大きさにまで巨大化させたが、さらにヴィシュヌは無限大にまで自分の腿を広げていかれた。最後にヴィシュヌは自分の腿の上で、手に持つ武器スダルシャナにて二人のアスラを殺害され、ヴェーダをブラフマー神の手に取り戻させたのだった。
 水の上に広がったアスラの脂肪は一カ所に集まって、それは陸地となり、悪魔マドゥから出来た故、メーディニーと呼ばれるようになった。それゆえ、土は口にすることが出来ないものなのである。また、マハーヴィシュヌ(クリシュナ)は、悪魔マ
ドゥを殺害した偉業により、マドゥスーダナ(マドゥの殺戮者)という異名で呼ばれるようになった。

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クリシュナ神の物語・「バーガヴァタ・プラーナ」