クリシュナ神の物語

バーガヴァタ・プラーナ 第三巻

第三巻は、第一話から第三十三話まであります。

 第三巻第一話
  ウッダヴァとヴィドゥラの邂逅
 
 聖シュカは言いました。
 『 繁栄する家を捨てて隠棲したヴィドゥラが、聖仙マイトレーヤに質問した事も、今あなたが為された質問と同じでした。
宇宙の主宰者である主クリシュナが、ハスティナープラの都に、あなたの祖父たち(パーンダヴァ)の大使として来られた時、パウラヴァ王(ドゥルヨーダナ)のもてなしを断り、まるで御自分の家のようにして訪問されたのは、ヴィドゥラの家だったのです 』(1〜2)
 
 王は尋ねました。
 『 敬虔なる聖仙マイトレーヤとヴィドゥラの会見は、どの場所で行われ、そして彼はいつその聖仙と話したのでしょうか? わが主よ、どうかこのことをお話しください。
 純粋な心を持つヴィドゥラが、気高き聖仙マイトレーヤに尋ねた質問は、尋常ならざる境地のその聖仙が答えたからには、些細なことであるはずがありません 』(3〜4)
 
 ― スータは続けた ―
 このようにパリークシット王に質問されると、聖仙の中の最高者、智慧の権化である聖仙シュカは、それを大いに喜ばれ、こう答えたのです、『 さあ、聞いてください! 』と。(5)
 
 聖シュカは続けました。
 『 盲目の王ドリタラーシュトラは、不正義にて判断力を失った為、邪悪な息子らを支持したのでした。そして死んだ弟の息子たち(ユディシュティラなど)をラックを塗った家に住ませ、そこに火を放ったりしたことは、あなたもよく知られるでしょう。
 王の次男(ドゥフシャーサナ)は、ユディシュティラの妻である、王の義理の娘ドラウパディーの髪をつかむや、王宮の広場を引きずり回し、彼女が流す涙で、その胸に塗られたサフランは流れてしまう程でした。けれども息子のそのおぞましき行為を、王は止めようとしなかったのです。
 真実に身を捧げて、誰をも敵と見なさぬ、誠実な心の持ち主ユディシュティラ王は、いかさま賭博に破れた結果、十三年もの間、森に追放されました。そして森から帰った時、彼ははじめの約束通り、領地を返すよう頼んだのです。しかし欲に目のくらんだドゥルヨーダナは、その願いを拒否したのでした。
 そこで宇宙の教師クリシュナは、ユディシュティラの大使としてカウラヴァの王宮を訪ねられました。そして主はその時、信者にとってはアムリタの如き言葉を語られたものの、徳を使い果たしたドリタラーシュトラは、その言葉に価値を見い出さなかったのでした。
 さらに兄(ドリタラーシュトラ王)から部屋へ招待され、そこで助言を求められた時、賢明な助言者の宝のようなヴィドゥラは、政治家が今日でも敬意を持って「 ヴィドゥラニーティ(ヴィドゥラの忠告) 」と呼ぶ、それら一連の助言を兄に与えたのでした。(6〜10)
 
 ヴィドゥラはこのように言ったのです。「 耐え難きあなたの悪に耐え、誰をも敵と見なさぬあのユディシュティラに、彼の持ち分を返すのです。彼の後ろにはあなたの恐れるビーマが控え、ユディシュティラは弟たちとともに、怒りで蛇のように威嚇しています。
 ヤーダヴァ族に神と崇められ、大国を征服した今はご自身の都に住まれる、全てのブラーフマナと神々が味方する主ムクンダ(クリシュナ)は、パーンダヴァの大義を支持しておられるのです。
 ドゥルヨーダナとしてあなたの家に生まれ、息子としてあなたが育てて、今は最高者(クリシュナ)を敵に回すあの男は、悪魔の生まれ変わりなのです。その為あなたもまたクリシュナから顔を背け、自らの輝きを失ってしまったのです。それゆえ一族の為にも、直ちにあの不吉な男を追放すべきでしょう! 」と。
 ヴィドゥラの持つ性格は、聖者でさえ憧れるものでした。しかしその場所で彼がこう告げた時、ドゥルヨーダナとその仲間のカルナ、ドゥフシャーサナ、シャクニ(スバラの息子でドゥルヨーダナの母方の叔父)の怒りは、止まることを知りませんでした。彼らの唇は怒りで震え出し、ドゥルヨーダナは無礼にもこう口を挟んだのです。
 「 誰がこのひねくれた女中の息子をここに呼んだのだ? こいつは餌を恵んでもらっている主人にたてつき、敵の利益の為に働いているのだ。ああ、愚か者め、命だけは助けてやるが、今すぐ俺の都から出て行くがいい! 」
 兄(ドリタラーシュトラ)の面前で語られた、矢のように耳を突くこれら言葉に傷ついても、主のマーヤーの偉大さを知るヴィドゥラは、心の冷静さを失うことはありませんでした。そして弓を門のところに置くや、すぐさま王宮を出て行ったのです。
 クル族の持つ徳ゆえ、ヴィドゥラはその一族に生まれたのでした。けれども今や彼は宗教的功徳を積む為、ハスティナープラの都から出て行き、この地上における、全ての聖地巡礼の旅に出かけたのでした。永遠に神聖な御足をされる主にとり、それら聖地はまことに神聖な場所であり、そこには一千一もの姿となって主が住んでおられるのでした。
 彼は誰とも行動を共にせず、ただ一人、自分の足で、街や聖なる森、山、木陰、河、澄んだ水をたたえる湖、主の像にて飾られた聖地、それらを訪ねて回りました。
 彼は身内からも見分けられぬよう、遊行僧の姿をして地上を流離い、木から落ちた果物など、清らかな食べ物だけを口にしました。そして一つの例外もなく全ての聖地で沐浴し、大地の上で眠って、身支度をすることなく、ただシュリー・ハリを喜ばせるように誓いを守り続けたのでした。(11〜19)
 
 そうしてバーラタヴァルシャ(インド亜大陸のこと)の地を旅し続けた彼が、プラバーサに到着した頃、ユディシュティラはクリシュナの助けにより、誰もが認める全地球の王に戴冠したのでした。
 竹同士が風で摩擦し合い、生じた火で竹の林が燃えるように、彼の親族(カウラヴァ)が内輪争いによって全滅したことを、ヴィドゥラはその地で耳にしました。彼はその大惨劇を嘆くと、サラスワティー河が西に流れを変える岸辺へ、一人静かに赴いたのです。その河のほとりで、彼は、聖仙トリタ、ウシャナー(シュクラーチャーリヤの父)、アシタ、スワーヤンブヴァ・マヌ、プリトゥ王、火の神、風の神、スダーサ王、乳牛、グハ(カールッティケーヤ)、シュラーッダデーヴァ(ヴァイヴァスワタ・マヌ)、それら偉大な方の聖なる思い出に満たされた地に、また聖仙や神々が設立した、主ヴィシュヌに捧げられた聖域、さらにクリシュナを思い出させる、スダルシャナの印を屋根に持つ寺院などが建つ、それらの場所に、それぞれ滞在したのでした。 
 こうして繁栄するサウラーシュトラの土地、サウヴィーラ、マツヤ、クル・ジャーンガラの国々を旅した彼は、やがてヤムナー河のほとりで、偶然にも、もう一人の偉大な主の献身者ウッダヴァと出くわしたのです。
 聖仙ブリハスパティのかつての弟子であり、完全な心の平安を得たこの名高きクリシュナの従者を、ヴィドゥラは愛を込めて抱きしめました。そして主の御手に守られる自分の親族(ヤーダヴァ族)について、ヴィドゥラは次のように尋ねたのでした。(20〜25)
  
 「 かの偉大なる二人の御方(バララーマとクリシュナ)は、蓮から生まれたブラフマー神の祈りに応えて、この地上に降誕されたのでした。地球からその重荷を除かれ、全世界に喜びをもたらされた後、あのお二人は、今もシューラセーナ(ヴァスデーヴァの父)の家で暮らしておられるのでしょうか?
 私たちの義兄弟ヴァスデーヴァは、クル族の偉大な友であり、かつ支持者でもありました。そして彼は妹たち(クンティーら)の望むものを父のように惜しみなく与え、また彼女らの夫をも喜ばせたのでした。ああ、親愛なるウッダヴァよ、あの方は幸せにしているのでしょうか?
 またルクミニーがブラーフマナを喜ばせて息子として得た、愛の神(カーマ)の生まれ変わりであるヤーダヴァ軍の総司令官プラデュムナは、ああ、愛する友よ、元気にしていますか?
 サートヴァタ、ヴリシュニ、ボージャ、ダーシャーラ、それら王族の支配者であるウグラセーナは、かつては牢獄に幽閉され、もはや王座を諦めていた所を、蓮華の眼をされる主によって戴冠させられたのでした。あの御方は、今は栄えた日々を送っておられますか?
 ハリの息子であるサーンバは、過去にアンビカーが胎に育てたグハの生まれ変わりで、今生ではジャーンバヴァティーが敬虔な誓いにより息子と得たのでした。ああ、優しきウッダヴァよ、父に匹敵するあの偉大な戦車使いは、元気にしているでしょうか?
 ユユダーナ(サーティヤキ)はアドークシャジャ(クリシュナ)に奉仕したことで、苦行者にも得難き主の献身者の地位を手にしたのです。また彼はファールグナ(アルジュナ)から弓術の奥義をも教えられたのでした。その彼は、今も幸福に暮らしておりますか?
 穢れなき賢人、シュワファルカの息子(アクルーラ)は、主に心から帰依した御方でした。クリシュナの足跡が残る道の中を、彼は愛に我を忘れて転がり回ったのでした。今でもあの御方は健康にしているでしょうか?
 ヴィシュヌの母アディティのように善良な、主の母であるデーヴァキーは、三ヴェーダが趣旨として祭式を持つように、ご自分の胎の中で主を育てたのでした。彼女は今もつつがなくあの都で暮らしているでしょうか?
 あなたのような信者の望みを叶えられる、ヴェーダの根源、そして内的感官(チッタ、アハンカーラ、ブッディ、マナス)の中のマナス(心)を管理する神だと聖典にて讃えられる、神の如きアニルッダ(クリシュナの孫)は、全く元気にすごしておられますか?
 またフリディーカ(ヤーダヴァ族の長)、サティヤバーマーの息子たち、チャールデーシュナ(プラデュムナの兄弟)、ガダ(クリシュナの兄弟)、彼らクリシュナに帰依した人たちは、ああ、優しきウッダヴァよ、皆どうしているのでしょうか?(26〜35)
 
 マヤ(悪魔の建築家)が建てたユディシュティラの宮殿に財と栄光が溢れるのを見て、ドゥルヨーダナは激しい妬みを燃やしたのでした。その帝王ユディシュティラは、今はヴィジャヤ(アルジュナ)とアチュタ(クリシュナ)という二本の腕で守られ、ダルマに従って法を保護しているでしょうか?
 ビーマが棍棒を振り回して戦場を歩いた為、大地はとても耐えれぬ程でした。蛇のように容赦なかった彼は、自分を不当に扱った者ら(カウラヴァ家)に対する、長年の怨恨を捨てたでしょうか?
 ガーンディーヴァの弓を持つ者(アルジュナ)は、キラータ(猟師)の姿をしたシヴァ神に、山のように矢を射かけて喜ばせたのでした。あの戦車使いの名手は、全ての敵を征服し、殺戮して、今は平和に暮らしているでしょうか?
 プリターの養子である双子の兄弟(ナクラとサハデーヴァ)は、瞼にて守られる眼のように、腹違いの兄弟(アルジュナら)から守られたのです。インドラからアムリタを奪ったガルダのように、戦争後の調停で先祖の財産を取り戻した彼らは、それを心から喜んでいるでしょうか?
 あのパーンドゥは、自らの弓の他には敵を持たず、全ての世界を征服した並びなき英雄で、また最高の戦車使いだったのです。そして私の義理の姉(プリター)は夫であるそのパーンドゥを失った後、ただ自分の子供たちの為だけに生きたのでした。
 私の兄(ドリタラーシュトラ)は子供の意思に屈服して、息子(パーンダヴァ)として現れる死んだ異母兄弟(パーンドゥ)を不当に扱い、さらに支持者の私をもハスティナープラから追放して、今や地獄への道をつき進んでいるのです。ああ、優しきウッダヴァよ、私はその兄が心配でならないのです。
 けれども私は、兄の私に対する扱いを、少しも驚いたり、悲しんだりはしていません。人々のあり方に従って彼らの理性を惑わされるのは、宇宙の主宰者、クリシュナであられるからです。それゆえ私は主の栄光を見守りつつ、誰にも認められることなく、主の御慈悲にて、この世界を流離っているのです。
 主はカウラヴァの悪を直ちに罰せれたものの、それを見逃しておられました。なぜなら三重の自負心(生まれ、財産、学識)にてダルマを逸脱し、大地を幾度も軍隊で揺らした、そんな帝王らと共に彼らを滅ぼすことで、主はご自身に庇護を求めた人々の苦しみを和らげようとされたからです。
 実際は生まれることなく、行動もされない主の誕生と行いは、ただ悪人を根絶やしにして、人々をご自身に惹きつけんが為に為されるのです。さもなくば主は言うまでもなく、どうして三グナを越えた人が苦心してまで自分を肉体に縛りつけ、この世で行動するでしょうか?
 庇護を求める世界の守護神の幸福の為に、また主の意に従う信者の為にヤドゥの一族に降誕された、あの名高き主について、ああ、友よ、何か新しい知らせを知られるなら、どうか私にそれを教えて欲しいのです 」と 』(36〜45)
 


 

(第三巻第一話の終わり)

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