クリシュナ神の物語

バーガヴァタ・プラーナ 第四巻

第四巻は、第一話から第三十一話まであります。

 第四巻第五話
 ヴィーラバドラはダクシャの祭祀を破壊する

 マイトレーヤは続けました。
 「 父ダクシャに無視されたサティーが、自ら炎を放って死んだこと、さらにリブたちに自分の従者が追い払われたこと、それらをナーラダ仙から聞いた主シヴァの怒りは、留まることを知りませんでした。
 重き巻き毛を持つ主シヴァは、憤怒の思いで唇を噛みしめると、その時、稲妻のように眩しく光り輝きました。そして突然立ち上がるや、彼は轟くような大声で笑い出すと、炎のように燃える髪の一房を引き抜き、それを大地に叩きつけたのです。
 するとそこからはヴィーラバドラという名の、空を突くような巨人が姿を顕しました。黒雲のような身体をした彼は、千本の腕を持ち、太陽のように光る三つの眼、獰猛な歯、火炎のような巻き毛をして、頭蓋骨の首飾りを付け、手には様々な武器を持っていました。
 両手を合わせてその巨人が『 ああ、私は何をすればいいのでしょう? 』と聞いた時、亡霊の王(シヴァ)は『 おお、勇猛なるルドラよ、わが部分的顕現であるお前は、わが戦士らと共にダクシャの下へと向かい、ただちに彼と彼の祭祀を滅ぼしてしまうのだ! 』と命じたのです。
 怒りの顕現ルドラがこう命じると、その巨人は、神々らが崇める遍満する主(シヴァ)の周りを巡った後、その場から出撃していきました。ああ、親愛なるヴィドゥラよ、彼は自らの持つ強大な力ゆえ、最も力ある者にも立ち向かえると、堅くそう信じたのでした。
 周囲に恐ろしき声を轟かせながら、その巨人は宇宙の破壊者(死)をも殺しうる三叉の矛を手に、アンクレットの鈴を鳴らせて、ダクシャの下へ駆けていきました。そしてその後を追うように、唸り声を上げてルドラの従者らが従ったのでした。(1〜6)
 
 北の一角に突然、土煙が立つのを見て、祭祀を司る祭官や祭祀の主催者(ダクシャ)、そして集まった人々や、ブラーフマナとその妻らはこう考えました。『 この暗がりは一体どうしたことだろう? どこからこの土埃はやって来たのだろう?
 風など吹いてはいないし、強盗が現れた訳でもないだろう、なぜなら今はまだ、鉄の杖を持つプラーチーナバリ王が世を治めているからだ。またこの今、乳牛が放牧から急いで帰る時刻でもないだろう。ではこの土煙は一体どうした訳だろう? 今この時、世界は滅びんとしているのだろうか? 』
 けれどもプラスーティ(ダクシャの妻)などの女性らは、不安な思いに駆られてこう言ったのです。『 これはきっと、プラジャーパティ(ダクシャ)が他の娘たちの前で無垢な末娘サティーを侮辱した、その恐ろしき罪の報いに違いないわ!
 さもなくばこれは、彼が破壊の神(ルドラ)に犯した、その罪の報いでしょう。宇宙の崩壊時には、あの方は巻き毛を乱して踊り狂い、武器を携えた、旗のように長い腕を伸ばすのです。三叉の矛にて守護象は突き殺され、雷鳴のような彼の笑い声で、全世界は引き裂かれてしまうでしょう。
 いえ、怒り狂った彼はまばゆく輝き、眉をしかめた顔は恐ろしく、全ての星座を、ゾッとする歯で噛み砕くでしょう。あの方を怒らせたのなら、たとえその人が創造神であっても、決して無事には済まされないでしょう! 』(7〜11)
 
 このように人々が動揺して話すうちに、天と言わず地と言わず、全ての方向から、何千という恐ろしき凶兆が現れたのです。強靱な心を持つダクシャも、これにはさすがに震え上がったのでした。
 この頃までには、おお、ヴィドゥラよ、小人のように背の低い、ある者は赤茶色、または黄褐色の肌を持つ、鰐のような腹と顔をしたルドラの従者らが、あらゆる方向から武器を手に集まってきて、広大な祭儀場を取り囲んだのです。
 ある者は会堂の東西の柱に乗る梁を壊し、他の者は西の位置にある祭祀の主催者や祭官の妻らの部屋、また会堂の前に建てられた集会堂、祭火に捧げる供物の貯蔵庫、そして主催者の為の建物や食堂などを破壊して回りました。
 またある者は祭祀の容器を粉々にし、さらに大切な祭火をも消してしまいました。また他の者は祭壇に小便をかけたり、北の方向にある、祭祀の高座を区画する木綿の糸を引きちぎったりしのです。
 さらにある者は修道僧に暴力をふるい、他の者は祭官たちの妻を怖がらせて、そして他の者は、今にも逃げようとしていた、彼らの側に座る神々を捕まえたのでした。
 マニマーンは聖仙ブリグを捕まえ、ヴィーラバドラは祭祀の主催者ダクシャを、チャンディーシャはプーシャーの神(アディティの十二人の息子の一人)を、ナンディーシュワラはバガ(アディティの他の息子)を捕まえたのでした。(12〜17)
 
 そしてこれら暴虐を眺めていた、祭祀を司る祭官たち、そして集まった天国の住人らは、シヴァの従者らに石を投げつけられた為、這々の体でそこから逃げていったのです。
 バヴァの部分的顕現、ヴィーラバドラは、ブリグの口髭と顎髭を引きちぎりました。なぜならかつて彼は祭祀にて、祭火に柄杓で供物を注ぐ間中、皆の前で自慢げに口髭を見せびらかせて、主シヴァをあざ笑ったからでした。
 次にヴィーラバドラは、激怒してバガを地面に叩きつけ、彼の眼をえぐり抜きました。なぜならバガは、ダクシャがシヴァを冒涜した時、目配せをしてそれを黙認したからでした。
 次にヴィーラバドラは、かつてシヴァがダクシャにけなされた時、自分の歯を見せてそれを笑ったプーシャーの歯を、主バララーマがカリンガ王の歯を叩き折ったように(第十巻第六十一話)、粉々に粉砕したのでした。
 三眼を持つヴィーラバドラはとうとう最後に、祭祀の主催者ダクシャを大地に引きずり倒しました。そしてその胸の上に足を置くや、鋭い刃を持つ武器で彼の首を切断しようとしたのでした。けれどもどのようにしても、彼の首は切り落とすことが出来なかったのです。
 如何なる武器や矢を用いても、ダクシャの皮膚さえ切ることが出来ないと知ると、バヴァ(シヴァ)の化身ヴィーラバドラは非常に驚き、しばしの間、思案に耽りました。
 やがてヴィーラバドラは、祭祀にて犠牲獣を殺害する方法を思い出し、同じ方法にて祭祀の主催者、ダクシャの首を切ることに成功し、彼を祭祀の犠牲獣として扱ったのでした。
 ヴィーラバドラのこの働きを見ていた死霊や亡霊、悪鬼たちは、やんやの喝采を彼に送りました。そしてそれを見たダクシャの一族は、全員が悲鳴を上げて立ち上がったのです。
 怒り狂ったヴィーラバドラは、ダクシナーグニという祭火の中に、供物としてダクシャの頭を投げ入れました。そして祭祀の大会堂に火を放った後、彼はヤクシャやクベーラの従者らが住む、カイラーサ山へ帰っていったのでした 」(18〜26)
 

 

(第四巻第五話の終わり)

(校正終了)

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