クリシュナ神の物語

バーガヴァタ・プラーナ  第九巻  

第九巻は第一話から第二十四話まであります。

 第九巻第十五話
 リチーカ、ジャマダグニ、パラシュラーマの物語
 
 聖シュカは再び始めました。
 『 その後イラーの息子、プルーラヴァーは、ああ、人々の守護者よ、妻のウルヴァシーを通して、アーユ、シュルターユ、サティヤーユ、ラヤ、ヴィジャヤ、ジャヤという、六人の息子をもうけました。
 シュルターユの息子はヴァスマーンと言われて、サティヤーユの息子はシュルタンジャヤ、ラヤの息子はエーカ、そしてジャヤの息子はアミタと言われました。
 さらにヴィジャヤの息子はビーマであり、ビーマからはカーンチャナが、カーンチャナからはホートラが誕生したのです。ホートラの息子はジャフヌと言い、彼は両手にガンガーの水を全て受けて、その河を飲み干したのでした。そのジャフヌの息子はプールと言われて、その息子はバラーカ、さらにバラーカの息子はアジャと言われたのでした。
 アジャからはクシャが生まれて、クシャからは、クシャーンブ、タナヤ(ムールタヤ)、ヴァス、クシャナーバという、四人の息子が誕生して、そしてクシャーンブの息子が、ガーディだったのです。(1〜4)
 
 そのガーディには、サティヤヴァティーという娘がいましたが、彼女にリチーカというブラーフマナが結婚を申し込んだところ、ガーディ王は、彼は花婿として相応しくないと考え、その聖仙ブリグの子孫(リチーカ)に、このように返事をしたのです。
 「 月のように白い身体を持ち、片方の耳だけが黒い馬を、どうか千頭、娘への贈り物として用意して下さい。なぜなら我々は、高貴なクシャの一族(クシカ)に属する者だからです 」と。
 このように返事をされたリチーカは、彼(ガーディ)の本心を知ると(自分を避けていると)、ヴァルナ(水の神)のもとに向かい、そのような馬をその神に出現させてもらって、それをガーディ王に贈り、美しいその王女と結婚したのでした。
 さて、リチーカの妻(サティヤヴァティー)と彼女の母(リチーカの義母)は、息子を授けてくれるよう、彼(リチーカ)に頼みました。そこでその聖仙は、二種のマントラ(妻にはブラーフマナを、義理の母にはクシャトリヤの息子を授けるという)を吹き込んだ二つのチャル(米と大麦、豆を牛乳とバターで炊いた、神への供物)を、それぞれ彼女たちの為に用意し、その後、沐浴に出かけていったのです。
 ところが彼が出かけている間に、義理の母は、彼が自分の妻(娘)の為に準備したチャルの方が勝っていると考えた為に、娘のサティヤヴァティーに、それを自分のチャルと交換してくれるよう頼みました。その為に彼女は、自分のチャルを母に与えて、自分自身は母に用意されたものを食べたのです。
 帰宅してこのことを知った聖仙は、妻に丁寧にこう言いました。「 あなたは大変な間違いを犯したのだ。あなたが産むであろう息子は、狂ったように敵を懲らしめる者となり、そしてブラフマンを知る最高者が、あなたの弟(母の子供)として生まれてくるだろう 」と。
 しかしサティヤヴァティーが「 そんなことは決してあってはなりません! 」と懇願した為に、聖仙リチーカは、「 ならばあなたの孫がそのようになるだろう 」と付け加えたのでした。そしてその結果、妻のサティヤヴァティーから、あのジャマダグニが誕生してきたのでした。
 その後サティヤヴァティーは、全世界を聖化する、最も神聖な河、カウシキー(コーシー)へと姿を変えられました。そして彼女の息子であるジャマダグニは、レーヌ王の娘、レーヌカーと結婚して、ヴァスマーンなどの息子を得たのでした。そのうち最年少の者が、あの偉大なラーマ(パラシュラーマ)で、よく学ぶ者は、彼は主ヴァースデーヴァの部分的顕現(アムシャ)だと話し、彼こそが、ハイハヤ族を滅ぼした者だったのです。彼はクシャトリヤを三の七度(二十一回)にわたって、この地上から一掃したのでした。ラジャスとタマスに支配されたクシャトリヤが、この地球に重荷となって、ブラーフマナに敵意を抱いたゆえに、如何に彼らの犯した罪が小さくとも、パラシュラーマは彼らを絶滅させてしまったのです 』(5〜15)
 
 パリークシットは尋ねました。
 『 クシャトリヤが地上から幾度も一掃されたとは、心を制御できぬ彼らは、いったいどんな罪を、その偉大な聖仙(パラシュラーマ)に犯したのでしょうか? 』(16)
 
 聖シュカは答えました。
 『 クシャトリヤの中の宝とも言え、かつ当時のハイハヤ族(ヤーダヴァの一部族)の支配者であったアルジュナ(カールタヴィールヤ・アルジュナ。またはサハスラ・アルジュナ)は、ナーラーヤナの部分的顕現(アムシャ)である、主ダッタ(ダッタートレーヤとして知られる)を崇めて満足させた結果、敵に驚嘆の念を起こさせる、千本の腕を与えられたのでした。さらに、誰にも妨げられぬ健全なインドリヤと、莫大な財産、栄光、武勇、名声、体力、ヨーガの習熟、原子にまで身体を小さく出来る超能力など、それらのものを獲得した彼は、風のように自由に世界を動き周り、その動きは、誰にも邪魔されることがありませんでした。
 やがて非常な自尊心を持つようになったアルジュナ王は、ある時、九種の宝石で出来た首飾り(ヴァイジャヤンティー)を身に飾り、宝石のように美しい女性達とともに、レーヴァー河(ナルマダー)で戯れている際に、千本の腕でその河をせき止めたことがありました。
 レーヴァー河はそのために大氾濫を起こしてしまい、その結果、その河辺で野営していた悪魔ラーヴァナ[十の頭を持つ者]の軍は、水浸しになってしまったのでした(ラーヴァナはその頃、世界征服の旅の途中だった)。偉大な英雄と自認するその悪魔は、このアルジュナの武勇に、とうてい我慢なりませんでした。
 そこで激怒したラーヴァナは、アルジュナに向けて総攻撃をしかけたものの、彼は多くの女性達の眼の前で、まるで子供のようにあしらわれて、捕縛されてしまったのです。そしてマーヒシュマティー(アルジュナの都)の牢獄に、猿のように幽閉されると、その後しばらくして、やっと解放されたのでした。(17〜22)
 
 そんなある時、アルジュナの一行は、狩りに夢中になって森を逍遙するうちに、自分たちが偶然にも、聖仙ジャマダグニの庵にいるのを知りました。
 苦行を積んだその聖仙(ジャマダグニ)は、彼ら一行を見ると、彼(アルジュナ)とその軍隊、大臣、連れていた動物の全員を、カーマデーヌ[望む全てを産んでくれる乳牛]の素晴らしい働きでもてなしたのでした。
 聖仙の庵が非常に裕福で、またそれが自分たちよりも遙かに勝るのを見ると、その英雄(アルジュナ)と仲間のハイハヤの人々は、その豊かな乳牛(カーマデーヌ)を羨ましく思うあまり、歓待されてもあまり喜びませんでした(この牛は祭火に注ぐ品々を生んでくれて、また聖仙の指示により、全ての繁栄を生み出したから)。
 そこで王は傲慢にも、部下にそのカーマデーヌを奪うよう命令し、その結果、その乳牛と仔牛は泣きながら、マーヒシュマティーの都へ連行されていったのでした。
 王が去ってしばらくすると、外出していたラーマ(パラシュラーマ)が、庵へ戻ってきました。そして王の悪行を聞くと、彼は打たれた蛇のように憤慨したのでした。
 畏怖すべきその英雄は、恐るべき自分の斧と盾、そして弓と矢筒を手に持つと、獅子が象を追いかけるように、王の後を追っていったのです。(23〜28)
 
 アルジュナは都に入ろうとした時、手に弓を持つブリグの最高者(パラシュラーマ)が、矢と斧で自らを武装して、身には黒鹿の皮をまとい、髷を太陽のように輝かせながら、猛烈な勢いで突進してくるのを眼にしました。
 そこでアルジュナは、その侵入者を迎え撃つために、戦象と戦車、騎馬隊、歩兵隊の四部隊から構成され、鎚矛や剣、矢、槍、シャタグニー(鉄の棘を付けた石、または木の筒状の武器)、投げ矢を武器として持つ、十七アクシャウヒニーもの最強の軍隊を進軍させました。しかし栄光に満ちたパラシュラーマは、彼らを、たった一人で殲滅させてしまったのです。
 敵の破壊者(ラーマ)は、まるで思念や風のように迅速に、あらゆる場所にその姿を現して、敵の戦士の腕や腿、首を斧で切り落として、その御者や動物を含めた、全てのものを殺害したのです。
 パラシュラーマの操る斧と矢により、自分の全軍隊が、その盾や旗、弓、身体を切り刻まれて、血の沼に横たわるのを見ると、ハイハヤの王アルジュナは激怒してしまい、彼に向けて突進していきました。
 名高きアルジュナ王は、五百本の矢を千本の腕で同時に弓につがえて、一斉にそれらを放ってラーマを射抜かんとしました。しかし武器を持つ最高者、ただ一つの弓を持つパラシュラーマは、それらを即座に自分の矢で切り落としたのでした。
 そこでアルジュナは次に、岩や樹を千本の手で引き抜きながら、凄まじい速度でラーマに突撃していきました。けれどもそのアルジュナの持つ千本の腕を、パラシュラーマはまるで蛇の頭を切り落とすように、斧で切断してしまったのです。
 そして腕を全て切られたアルジュナの首を、パラシュラーマはついに、山の頂を切るように切り落としたのでした。すると彼の一万人もの息子達はそれを見て、全員が恐怖してそこから逃げていったのでした。(29〜35)
 
 こうしてパラシュラーマは、衰弱した乳牛と仔牛を無事に取り戻すと、自分の庵に連れて帰り、それらを父(ジャマダグニ)に手渡しました。
 そして自分の成した事、またアルジュナが行った事を、逐一、父と兄たちに報告したのです。しかしその報告を聞いたジャマダグニは、彼に次のように語ったのでした。
 「 ああ、ラーマよ、力強き腕を持つラーマよ、身に全ての神を顕す、人々の支配者である彼を、そのように無意味に殺したとは、お前は大変な罪を犯したのだ!
 ああ、愛しき息子よ、我々ブラーフマナは、許すことによって、人々から崇拝される資格を得ているのだ。そして全世界が崇めるブラフマー神は、許すことで最高の支配者の地位(パラメーシュティン)を手にされたのである。
 さらにブラーフマナが持つ栄光は、許すことで太陽のように光り輝き、また全能の主であるシュリー・ハリは、許すことで、その者に喜んでくださるのである。
 その頭が(戴冠式で)聖化された王を殺すことは、ああ、愛しき者よ、それはブラーフマナを殺すよりも罪深いことなのだ。それゆえお前は、主アチュタ(ヴィシュヌ)に心を結びつけて、聖地を巡礼して周り、自分の罪を償わねばならないだろう 」と 』(36〜41)
 

(第九巻第二十五話の終わり)

注1 ヴァイヴァスヴァタ・マンヴァンタラにおいて、聖仙ブリグは水の神ヴァルナを父として誕生したとされ、その一族はブリグ族と称されて、代々、多くの偉大な聖仙を生んできた。ブラーフマナであるブリグ族とクシャトリヤのハイハヤ族は、アルジュナの父クリタヴィールヤまでは仲良く共存してきた。しかしその後、強大な野心を抱くようになったハイハヤ族に、ブリグ族は脅威を抱くようになり、リチーカとジャマダグニが彼らの王女と結婚して融和策をとってきた。だがカールタヴィールヤ・アルジュナの代になって、両者の反目が表面化したらしい。これは一部で言われているような、ブラーフマナとクシャトリヤという階級間の対立ではなく、ハイハヤ族の強大な政治的、経済的野心に対する、ブリグ族の反発だともされている。なぜなら、チヤヴァナからジャマダグニの代に至るまで、彼らブリグ族はクシャトリヤの娘を妻としてきたからである。ちなみに、パラシュラーマが世俗を離れた後、ハイハヤ族はマルワ、ラジャスタン、西インドを統合し、カーニヤクブジャ、アヨーディヤ、カーシーなどを侵略していったらしい。
注2 ハイハヤについては、第九巻第二十三話。

校正終了

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